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才能とは何か/ボイトレの基本的な考え方


「才能」という言葉をよく耳にすると思います。  

「自分には才能が無いから無理だ」とか「向いてなかったんだ」とか  

そんな言葉をよく耳にしますね。  

でも「自分は才能があったから成功したんだ」などと言う言葉を聞いた事はあるでしょうか。  

もちろん自分で才能があるなんて事を言う人は珍しいかもしれません。  

ですが、成功した人のエピソードを聞くと必ず常人では考えられないような努力の話が出て来ませんか?

このコラムでは才能とは何なのかを改めて考え、その差を埋めるための方法を見ていきたいと思います。

 

目次

・才能とは何か

ー才能とは日常話声の違いのこと

・なぜ才能の有無が生まれるのか

ー生まれ育った環境で日常話声が変わる

ー才能についてまとめ

・発声訓練の目的とは

ー自由な声の使い方を取り戻す

ー発声に使うパーツをコントロールする神経伝達力のトレーニング

・発声訓練で絶対忘れてはいけない2つのポイント

ー声質の細部にまでこだわる

ー普段全く使わない声を出す

・あとがき

・この記事のまとめ

 

才能とは何か

 

ー才能とは日常話声の違いのこと

 

僕は、歌において(特に発声において)は才能なんてものは無い、例えあったとしても極々わずかな差なのでは無いかと思うのです。  

と言うのも、声の世界で言われる才能とは「普段どんな声を出す習慣があるか:日常話声」でしか無いと考えているからです。  

よく「骨格の違い」などと言われることも多いですが、それは音域や声の自在性にはほぼ関与しない物となります。(詳しくは学術的解説をご覧下さい)

 

なぜ才能の有無が生まれるのか

ー生まれ育った環境で日常話声が変わる

 

人間は生まれてすぐ、呼吸をするために大声を出しながら泣きます。  

大人の数十分の一くらいの大きさしかない赤ちゃんが、きっとほとんどの大人が真似出来ない様な声量を出し  

男性でもようやく出せるかどうか位の低音から、金切り声の様な極高音までを延々出し続けるのです。  

しかも当然泣いている本人は「頭のてっぺんに響かせよう!」とか考えるわけもなく、訓練もせずに毎日毎日何時間も泣き続けられます。   

もちろん腹筋や背筋をバキバキに使う事も無ければ、背筋を伸ばしてやや前傾重心で発声する事もありません。  

 

人間の発声能力の全盛期は、間違いなく生まれたその瞬間です。  

そこから成長する中で、周りの大人達に  

「うるさいから静かにしなさい」  

「男なんだから泣くんじゃない」  

「女の子らしくお淑やかにしなさい」  

などと言われて自分の声を抑えながら生活する様になります。 

また、言葉を覚えたり移動できるように事で

「大声で泣き叫ばなくても意思の伝達が出来るようになる」

「声質や音程、声量以外の要素で相手に情報を伝えられるようになる」

といった事が起きます。

こういった事のせいで、生まれた瞬間には出せていた様々な音程・声色・声量は必要なくなり、「自由な声の使い方」を忘れていってしまうのです。

 

こういった事は、主に言語獲得期~学齢期あたり(1歳~小学生の終わりごろまで) に起こると考えられます。

それまでに聞いていた周りの大人たちの声や、育てられ方などによって才能と呼ばれるものが変わって来るという事です。

才能についてまとめ

 

才能についてをまとめていきます。

歌における才能とは「その人が普段どんな声を使う習慣があるか」であり、その習慣によって「自由な声の使い方」をいかに失わずに大人になれるかが変わる。

才能のある人とは「自由な声の使い方」を失わない発声習慣のまま大人になる事ができた人、という事になります。

そのため、もしもあなたに才能が足りないならば、「自由な声の使い方」を取り戻すような発声訓練を行い、それを習慣化することが必要だという事ですね。

 

発声訓練の目的と

ー自由な声の使い方を取り戻す

 

ボイストレーニング・発声訓練の目的は、先程お話しした「忘れてしまった自由な声の使い方」を思い出すこととなります。  

元々は動かす事が出来ていた喉のパーツが、長年使わなかったことにより動かせなくなって(神経がほとんど通わなくなって)しまっている  

その為声量を出したいと思っても声帯が上手く閉鎖しなかったり、音程を上げようとしても声帯をきちんと伸展させる事が出来なくなっています。(このあたりの詳しい仕組みは学術的解説をご覧下さい)  

そうする為の筋肉にきちんと脳から指令が送れていないからであり、それは長期間使わなかった動きだった為、脳が指令の送り方を忘れてしまったり脳からの指令通り上手く動かせなくなっているからです。  

通わなくなってしまった神経や動かなくなってしまった筋肉をリハビリの様に回復させていく、つまりボイストレーニングとは「神経伝達力」を鍛えていく訓練だという事です。  

ー発声に使うパーツをコントロールする神経伝達力のトレーニング

 

神経や筋肉に対してのリハビリであれば、当然短期間では効果が薄いでしょう。  

一回の練習時間は短めに、それを何度も繰り返すのが一番効率的です。  

何かをする時に一日だけ根詰めて8時間行うよりも、毎日15分ずつ一ヶ月続けた方が上達するだろうと言う事は明らかですよね。  

一般的に言われているのは  

「1回の練習時間は7分前後。それを1日に何度も行い、週に最低3日以上」  

これくらいの練習のやり方が、一番効果的だそうです。  

当然毎日行えれば一番ですが、毎日練習は難しいという方はまず週に3日から始めてみて下さい。  

まずは一日7分を目標に、それを繰り返すだけで3か月も経てばきっと変化が目に見える形で表れているはずです。  

 

発声訓練で絶対に忘れてはいけない2つのポイント

①声質の細部にまでこだわる

 

発声訓練においてとても重要な事が2点あります。

一つ目は「出している声質の細部にまでこだわる事」です。  

先程お話しした通り、ボイトレは神経の訓練です。  

その為、目的となる筋肉に神経伝達がされていなければ、いくら練習を重ねても一向に上達はしません。  

それどころか変な癖が付いて余計に声が出し辛くなったり、最悪の場合喉を壊してしまう事もあるでしょう。  

人間が出す声には、その使用している筋肉によって必ず音質的な特徴が生まれます。  

僕たちボイストレーナーは、その声の特徴を聞き分けてその人の声を判断し、目的の運動を促すのが仕事です。  

その為ボイストレーナーの下に通って練習している方は、しっかりとその講師の提示する声の特徴をつかみ、自分の声との違いを確認しながら練習をして下さい。  

同じ講師についても人によって成長に差が出るのは、(練習メニューが毎度的確ならば)その声の特徴を聞き分ける力の差が原因です。  

しっかり細部まで声質にこだわって、より効果的な発声訓練を行いましょう。

②普段全く使わない声を出す

 

二つ目は「普段使っていない、恥ずかしい様な声を出す事」です。

ちょっと「何言ってるんだ?」という人が続出しそうなので、詳しく説明させてください。

 

冒頭で、発声訓練とは「失った自由な声の使い方を思い出す事だ」とお話ししました。

そしてそれを失った原因は、大人からの抑制や言語の習得によって様々な音程・声色・声量の声を出さなくなってしまった事だという事もお話ししましたね。

普段使っていない声があるから、それを出す機能が弱くなって発声能力全般が低下しているという事になります。

つまり発声機能を向上させるには、普段全く使わないような声をたくさん出す必要があるという事になります。

 

自分が普段使わないという事は周りの人も使わないという事、周りの人がやらない事をするのは大体恥ずかしい事ですよね。

発声訓練で練習する声は、全てそういった「恥ずかしい声」となります。

恥ずかしい声、つまり普段自分も周りも使わない声を沢山練習する事で、失ってしまった喉の機能を取り戻して発声能力を向上させる。

これが発声訓練においてとても重要な事になる、という事です。

あとがき

 

さて、冒頭で「歌における才能とは、その人が日常習慣として出している声の違いだ」と述べました。  

いわゆる才能とは、発声訓練時の様な神経や筋肉の使い方が生活の中で発動しているか否かと言う事になります。  

もちろん人間は常に一定の声では生活しませんから、日常使う様々な声がたまたま発声にプラスとなる声ばかりだった、と言う人がいわゆる「才能がある人」と言われているだけに過ぎません。  

そして、大抵の人はそんなに日常使っている声の違いは大きくありませんから、その「才能の差」も微々たるものでしか無いはずです。  

歌に必要な様々な筋肉や神経を日常の訓練で刺激していき、「才能がある人」と同じ様な習慣を身に着けてしまいましょう。  

それが出来た時、今まで苦労していたのが嘘の様に自然と良い声や幅広い音域が獲得出来ているはずです。

この記事のまとめ

 

・才能とは、  生まれ育った環境(小学生の終わりごろまで)によってついた発声の習慣の違いのことだよ

・発声訓練とは、発声習慣によって使わなくなってしまった筋肉や神経を刺激する事で、元々持っていた発声能力を取り戻す事だよ

・発声訓練は神経のトレーニングだから、短時間の訓練を頻繁に行うのが良いよ(1回7分、一日に複数回、週に3日以上が基本)

・目的の筋肉が動かせないと意味が無いから、訓練で出す声の声質について細部までこだわろう

 

 

 

Saucer Of the Sound music school 代表 絢太(kenta)