ボイストレーニングをすると、本当に歌は上達しますか?と聞かれれば、当然「上達します」と答えます。
しかし現実的に、一生懸命練習を重ねても上達しないケースは沢山あると思います。
それは、僕自身そういった体験を何度もしてきた中で身をもって感じた「現代ボイストレーニングの課題」です。
なぜ人によってボイトレをしても上達しない、あるいは上達が頭打ちになったり遅かったりするのか。
ひとつ前の”練習に意味を持たせるための「ボイトレの意味」と「臨み方」の話”というコラムで学習者の課題に関するお話をしました。
ここでは、前のコラムでお話出来なかったもう一つの課題である、ボイストレーニングメニューに対しての課題についてお話して行きたいと思います。
現在のボイストレーニングで上達しない理由は、大きく2つに分けられます。
一つは、既存のボイストレーニングメニューの大半が感覚に頼ったものだと言う事です。
「頭の先から声を出す」「お腹で声を支える」「鼻に声を響かせる」
など、挙げればキリがありませんが、共通して言える事は
「声を発している人にしか感じられないもの」
を頼りにボイストレーニングのメニューが成り立っていると言う事です。
レッスンのメニューを提唱する人は、大抵ボイストレーナーや本の執筆者、それから音楽の先生などでしょうか。
ここではそれらを一括して「指導者」と呼ぶ事にしたいと思います。
ひとつ前の”練習に意味を持たせるための「ボイトレの意味」と「臨み方」の話”のコラムで、僕たち指導者の仕事が
発声するための筋肉の使い方によって生まれる声質の特徴から、声の状態を把握し理想の状態へ発声者を促す事
だと述べました。しかし上記の様な「発声者にしかわからない感覚」を頼りにボイストレーニングを行っては、指導者はその声の状態を理解する事が出来ないですよね。
ましてや昨今のボイストレーナーに至っては、大半がプレイヤー上がりの元シンガーや現役ミュージシャン達です。
そういう人は大半が「発声者にしかわからない感覚」を”たまたま”キャッチ出来たから上達したか、あるいはもともと発声の状態が良かった人(詳しくはひとつ前のコラムをご覧下さい)のどちらかである事が多いはずです。
その為感覚論でしか上達する方法を知らないが為に、レッスンを教えているボイストレーナー自身今行っているメニューがどの程度正確に出来ているのか知る事が出来ないのです。
また、発声する上での筋運動上の感覚が万人共通かと言われると、現在万人共通の感覚は発見されていないそうです。
聴覚上や筋運動上同じ発声をしているにも関わらず、ある人は「鼻に響く感じがする」と言い、またある人は「うなじに響きを感じる」と言う、なんて事が起こるのです。
いかに感覚に頼ったボイストレーニングが難しいものか、理解して頂けたかと思います。
現在よく目にするレッスンメニューの大半は、「あなたが上達するやり方」ではなく「指導者が上達した(あるいはしたと思っている)やり方」なのです。
現在のボイストレーニングで上達しない理由の2つ目は、そのメニューの大半がインスタントな物であると言う事です。
ここで言うインスタントなメニューとは「そのメニューで一時的に発声法が変化するその感覚を覚えてクセ付ける」事だと思って下さい。
恐らくご覧になっている方の大半は、この内容に関して「それのどこがいけないんだ?」と感じると思います。
確かに声は変わるし、それを継続すれば良くなりそうな気がするかと思います。実際少しは歌の上達にも有効でしょう。
しかし問題は、その様な事をしても自分自身の根本の能力(筋力や神経伝達力など)は伸びないと言う事です。
インスタントなメニューは、要約すると”コツ”を掴むための練習法です。
例えばサッカーの選手であれば「シュートを上達させるためにひたすらシュートを打ち続けて上手な蹴り方を覚える」という練習法であると言う事です。
プロのサッカー選手を想像してみて下さい、そんな練習法でプロになれた人は一人でもいるでしょうか。
僕はサッカーはあまりわかりませんが、恐らく一人もいないんじゃないかと思います。
当然そう言ったコツをつかむ練習も必要です。
しかし、それだけでは自分の大元の能力はほとんど伸びないし、伸びるとしてもごく僅かずつしか伸びないと言う事は容易に想像が付くと思います。
スポーツを始めたばかりで体が出来ていない人が、コツを掴むだけでプロの選手の様な動きが出来る様にはなりませんよね。
やりたい動きが出来る体を作りながら、並行してコツを覚えていく。
何を練習するにもこういった手順が必ず必要だと思います。
インスタントなメニューがボイトレの現場で好まれている大きな要因が、歌の上達にかかる時間と労力です。
大抵の人が、出来るだけ短時間でしかも楽チンに上達したいと考えているはずです。
当然僕もそのような方法があれば真っ先に飛びつくでしょうが、そんなに物事は簡単に行きませんよね。
それにそんなに簡単にプロ並みで一流の歌唱力が身に付くならみんなプロ級に歌える様になっているはずで、そこに価値なんか感じなくなってしまう筈
類い稀な才能(便宜上この様に書いておきます)や血の滲む様な努力があって初めて手に出来るものだからこそ、今の世の中でも一流シンガーはこんなにも価値のある存在として活躍出来るのです。
実際インスタントなメニューは即効性があります。当然ですよね、今の能力のままでも小手先の技術で少しコツが掴めるのですから、ちょっと伸びるだけなら抜群のメニューなのです。
しかしこれでは根本の能力は上がりませんから、すぐに成長は頭打ちになってしまいます。
そこからまた新しく小手先の技術を使って、能力を現状維持しながらどうにかやりやすい方法を探していく、これが今のボイトレの現状なのです。
周りの人や、あるいは自分自身を振り返ってみて下さい。練習をして「ちょっと歌いやすいぞ」と感じた練習法をひたすら繰り返していませんか?
2~3日や一週間程度であればそれでもいいですが、その目先の「成長している感」に騙されて何年も同じ事を繰り返している人がほとんどだと僕は思います。
だからボイトレをして最初は上手く行ってたはずなのに気づけば成長は止まり、プロ並に歌えるようにはならないまま結局何年もボイトレを続けている。
そんな状態の人が後を絶たないのです。
楽して一流レベルになる方法や裏技の様に短期間で一流レベルになる方法は、今のところありません。そしてこれからも恐らく発見されないでしょう。
しかし、地道に取り組めば一流になれるかというとそれも正しい練習法でなければ難しいのです。
次のコラムでは、実際のボイトレの現場でよく行われているいくつかのメニューに対しての考察をしたいと思います。
自分の今までの練習や認識と比較して、新たな気づきが生まれる事を願います。
そして、自分自身で練習法に対する判断が出来る様になるため、その見識を深める手助けになればと思います。
Saucer Of the Sound music school 代表 絢太(kenta)
test (月曜日, 13 7月 2020 19:24)
test
立花海渡 (月曜日, 13 7月 2020 18:41)
和太鼓とボーカル ダンス